書きかけ剣薫【花嵐の中で】
一片。一片。
ひらひらと緩く線を描きながら薄桃色の花弁はふわりと地面に着地する。
その数は増え、互いに重なりあい、まるで絨毯のように地面を覆っていく。
散る桜も美しいと思う。
散ってしまった桜も。
けれど今は願う。
お願い。
どうかあの人がちゃんと帰って来れるように。
道を標して、散らないでいて。
優しい色で迎えてあげて。
***
ふわっと、不意に意識が浮上した。
覚醒、というものに近い突然の目覚めだった。
けれどどこか現実味がない気もする。
ここの所、毎日同じ景色を目に映すばかりで日にちの感覚が鈍くなっている。
今日は何日だったか。
そして今は朝なのか。
それとも昼だろうか。
最早自分の体と同化しつつあるのではないかと疑わしい終日の寝床で、ゆっくりと顔だけを横に向ける。
僅かに空いた障子戸の隙間に縁側の板目が見える。
まだ肌寒い空気の中、明るい光が降り注ぐ其所には、風に乗って来たのであろう薄桃色の花びらが幾つか見られた。
桜の花弁だ。
ふっと頬を緩ませるが、全身が鉛のように重く、顔の筋肉も固くぎこちない。
それでも外の明るさに目を細め、少なくとも夜ではないことに安堵する。
徐々に冴えてきた感覚で、廊下をこちらに向かう足音を拾った。
幾つか床が軋む音がして、それが近くなったと思ったところで障子が開いた。
「恵さん…」
「あら、目が覚めた?」
赤い唇をしたその人は上品に微笑んだ。
「丁度良かったわ。薬飲みましょう」
「はい」
いつものやり取りだった。
甲斐甲斐しく看病をしてくれる恵に感謝が尽きることはない。
母のように、姉のように。
温かな叱咤激励で自分の背を押して、ただ見守ってくれている。
そんな頼もしい彼女の真剣な横顔を、羨望の眼差しで見つめていた。
恵が薬の準備をしてくれている間にも、僅かに開かれた障子の向こうで途切れることなく桜が舞い散っている。
ああ、散ってしまう前に早くお花見に行かなくちゃ。
春の木漏れ日がまるで泳いでいるように、揺らめく光と共に流れる小川に沿って咲き乱れる桜並木。
今年もあの場所で、みんなと一緒に他愛もない話をしながら桜を愛でよう。
お弁当には何を入れようか。
昔は包丁を手にすることさえ危ぶまれたが、今となっては微笑ましくも懐かしい思い出であり、自分も大分腕を上げたものだと一人感心する。
花見をするようになった当初の頃は、酒や大体の肴は赤べこで調達し、お弁当はいつもあの人が拵えていた。
***
随分も随分前に書きかけて放置していた小説の欠片です(笑)
星霜編意識。
なんか、当時はすごく書きたくて仕方なかった話の冒頭なのでちょっとあげてみました。
今は剣薫回路があまり活発に通電していないので続きは書きません。
ちゅーとはんぱ!!(笑)←
ひらひらと緩く線を描きながら薄桃色の花弁はふわりと地面に着地する。
その数は増え、互いに重なりあい、まるで絨毯のように地面を覆っていく。
散る桜も美しいと思う。
散ってしまった桜も。
けれど今は願う。
お願い。
どうかあの人がちゃんと帰って来れるように。
道を標して、散らないでいて。
優しい色で迎えてあげて。
***
ふわっと、不意に意識が浮上した。
覚醒、というものに近い突然の目覚めだった。
けれどどこか現実味がない気もする。
ここの所、毎日同じ景色を目に映すばかりで日にちの感覚が鈍くなっている。
今日は何日だったか。
そして今は朝なのか。
それとも昼だろうか。
最早自分の体と同化しつつあるのではないかと疑わしい終日の寝床で、ゆっくりと顔だけを横に向ける。
僅かに空いた障子戸の隙間に縁側の板目が見える。
まだ肌寒い空気の中、明るい光が降り注ぐ其所には、風に乗って来たのであろう薄桃色の花びらが幾つか見られた。
桜の花弁だ。
ふっと頬を緩ませるが、全身が鉛のように重く、顔の筋肉も固くぎこちない。
それでも外の明るさに目を細め、少なくとも夜ではないことに安堵する。
徐々に冴えてきた感覚で、廊下をこちらに向かう足音を拾った。
幾つか床が軋む音がして、それが近くなったと思ったところで障子が開いた。
「恵さん…」
「あら、目が覚めた?」
赤い唇をしたその人は上品に微笑んだ。
「丁度良かったわ。薬飲みましょう」
「はい」
いつものやり取りだった。
甲斐甲斐しく看病をしてくれる恵に感謝が尽きることはない。
母のように、姉のように。
温かな叱咤激励で自分の背を押して、ただ見守ってくれている。
そんな頼もしい彼女の真剣な横顔を、羨望の眼差しで見つめていた。
恵が薬の準備をしてくれている間にも、僅かに開かれた障子の向こうで途切れることなく桜が舞い散っている。
ああ、散ってしまう前に早くお花見に行かなくちゃ。
春の木漏れ日がまるで泳いでいるように、揺らめく光と共に流れる小川に沿って咲き乱れる桜並木。
今年もあの場所で、みんなと一緒に他愛もない話をしながら桜を愛でよう。
お弁当には何を入れようか。
昔は包丁を手にすることさえ危ぶまれたが、今となっては微笑ましくも懐かしい思い出であり、自分も大分腕を上げたものだと一人感心する。
花見をするようになった当初の頃は、酒や大体の肴は赤べこで調達し、お弁当はいつもあの人が拵えていた。
***
随分も随分前に書きかけて放置していた小説の欠片です(笑)
星霜編意識。
なんか、当時はすごく書きたくて仕方なかった話の冒頭なのでちょっとあげてみました。
今は剣薫回路があまり活発に通電していないので続きは書きません。
ちゅーとはんぱ!!(笑)←
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